アニメーション監督・瀬下寛之氏特別講演会!「好きを仕事にして一生食べていくための思考法」とは?

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KADOKAWAアニメ・声優アカデミーでは、業界の第一線で活躍するプロフェッショナルから実践的な指導が受けられます。
今回は8月下旬に実施された、KADOKAWAグループのアニメ制作スタジオであるStudio KADAN所属・瀬下寛之監督の特別講演会の模様をレポートします!

瀬下監督「アニメ監督の瀬下と申します。コンピューターグラフィックスの仕事に、40年近く携わってきました。この10年は、日本の商業長編アニメにCGを導入したアニメーション監督として、家族と仲間をどうにか養いながら過ごしてきました。最近では新海監督作品『すずめの戸締まり』で、椅子やミミズなどのCGキャラクター演出にも携わっています」とご挨拶。

【PROFILE】
1967年生まれ。1980年代から様々な分野のCG、VFXを手掛ける。
『FINAL FANTASY』シリーズなどのゲームムービー制作や『劇場版 シドニアの騎士』、『亜人』、『BLAME』、『GODZILLA』三部作、『ルパンVSキャッツ・アイ』、『GAMERA -Rebirth-』、『カミエラビ』など数々の長編アニメーション手掛ける。

「こうしてみると人類が滅びる作品ばかりですね」と冗談を交え、会場を沸かせました。

【1. 講演会テーマは、「キャリアパスと思考法」】

瀬下監督「『好きなことのためなら努力はできる』と思いませんか?皆さんも、プラモデルを夢中で作り気付けば朝だったとか、マンガを読み続けたら朝だった、なんて体験があるんじゃないでしょうか?「やらされる」ではなく「やりたい」からやるのです。
夢中になれることと出会えるのは幸せなことです。僕は『これで食べていきたい』と親に話したら『生きていくのはそんなに甘くない』と叱られました。でも、『好きなことだったら頑張れる』という感覚で58歳の今まで生きてこれました。
ちなみに自分に才能があるなんて思っていないです。世の中にはとんでもない才能がゴロゴロいて、上を見ても下を見てもキリが無いんです。だから僕の場合、人と競争するのをやめました。そして、ひとつルールを決めました。『昨日の自分よりちょっと良くなる』こと『自分自身と競争し続ける」ことです。これを何十年もやり続けています。

皆さんは今後、熾烈な競争にさらされます。競争相手となるクリエイターやアーティストたちにとって努力することは当たり前です。皆猛烈に努力しています。だからどれだけ自分が頑張っても競争に勝てない、自分の思い通りにならない、という状況にさらされることがよくあります。
そして、努力が実らないのは自分には才能が無いからだとか、色々な悩みにぶつかります。その際、人と比較せず、昨日の自分より良くなればいいと考えてみることもひとつの打開策なのです。
これ以外にも、どんな方法でも良いので、自分自身を鼓舞できる思考法を持つことが重要なのです」

【2. 「なりたい者になるための道筋」「自分が主人公の物語を作る」】

瀬下監督「就職を考える時、キャリアパスという言葉と出会います。要は、どういう道筋を行くべきなのかということです。皆さんは皆さん自身が主人公の物語を作るのです。あまり好きな言葉ではありませんが、いわゆる『親ガチャ』がどれほど良くても、つまずくときはつまずきます。

僕の場合、皆さんと同年代で働き始めた頃、いちばんの劣等生でしたが、不思議と先輩や仲間たちが助けてくれました。実は才能があるから生き残るわけではないです。サーベルタイガーはどれほど強くても絶滅しました。一方で、ネズミのように一見弱い生き物が、環境に適応したことで生き残りました。]

強くなりたいのか、生き残りたいのか、イメージしてみてください。僕のテーマは『生き残ること』です。なぜならこの仕事でずっと食べていきたいからです。それが僕の物語になりました。皆さんそれぞれ、『自分の物語』をどうデザインするか考えてください」

【3. 生き残るための知恵】

瀬下監督「 Knowledge(知識)とExperience(経験)の両方を繰り返して、やっとWisdom(知恵)になります。ただ知っているというだけでは、仕事や人生には活用できません。そしてこの『役に立つ知識や経験』としての知恵が増えないと業界で生き残ることは難しくなります

一見便利な、つまり『誰でも簡単に得ることができる情報』であるインターネットの情報はフェイクだらけです。本当に正しいかどうかは自分で考え、確かめなくてはなりません。その為にも自分が『知っているようで知らない』ことを知ってください。

人間は他人との関係性で優位に立ちたがるので『知らない』と素直に言える人は少ないのです。僕は劣等生だから知らないって言えました。教えてくださいと言えました。

この知らないことを自覚すること=『無知の知』は、知恵を得る為の学びの入口としてとても重要です。ちなみに皆さん、この知っているようで知らなそうな言葉の定義の例を幾つか挙げてみますね」

ここで瀬下監督から在校生に対して例題が出題されました。

【Q. 企画と計画はどう違う?】

在校生「企画はどういうものを作りたいか、計画はそれを実行するための順序です」

瀬下監督「そう!その通りです。すごいな。よく知ってますね!でも一応説明しますね(笑)。”画”は、ビジョンを意味します。そして”企”は人がつま先立ちして遠くを見る様子。
つまり何をしようか遠く(先の未来)を見通して考えること。”計”は数字を数える様子が語源です。そうやって言葉を構成する文字の起源を掘り下げてみたりすると、その言葉の持つコンセプトが理解しやすくなります」

【Q. ディレクターとスーパーバイザーはどう違う?】

瀬下監督「この『ディレクター』は良く聞く役職名だと思いますが、実際どのような役割かをきちんと説明できますか?。ディレクターは監督職、スーパーバイザーは管理職です。ディレクターは方針つまり何をやりたいか?=Whatを決めます。スーパーバイザーはそのWhatに対してどのように実現するか?=Howを提案します」と解説。

瀬下監督「皆さん1円玉を見間違うことは絶対無いのに、その表裏には何が書いてあるか?説明できますか?おそらくできない方がほとんです。それは何故か?『見ているけど観ていない』からです。

一度でいいから試しにスケッチしてみてください。絵が下手でもいいんです。スケッチをする=観ることです。観るとは、ただ見るのではなく理解することなのです。

皆さんは、クリエイターを目指しているわけです。ですから一般の方と同じようにただ見るだけではなく、クリエイターとしての理解を得る為の方法として、この描く理解=観ると実践してみてください。

【4. どう知る?どう学ぶ?「模倣」】

瀬下監督「とにかく重要な学び方について、ひとつ紹介します。それは当たり前に聞こえるかも知れませんが、『模倣』です。真似れば解ります。いかに作るのが大変なのかを。まずは好きな作品を真似て作ってみてください。
工業の世界での事例ですが、メーカーは競合他社の製品を分解して組み立てたりしているのです。この行為をリバースエンジニアリングと言います」とアドバイス。

【5. 質疑応答】

―― 脚本専攻です。アニメを観て、声優さんの声やアニメの映像を分解して考えることは効果的ですか?

瀬下監督「台詞がどのように解釈されるかは、声優の演技によるところが大きいです。役者によっても台詞の解釈や印象が大きく変わることがあります。まず既存作品の脚本だけを読んで、どういう風に喋るかを想像してから完成品を観るなどすると、文字だけの台詞がどのように解釈されるか、学習として一定効果があると思います」

―― インプットはどのようにされていますか。

瀬下監督「ITの進歩に伴い情報が氾濫して、自分がやろうとしていることにマッチしているか?適切なのか?を判断することが難しくなっていると思います。ですから、結局伝統的なやり方になりますが、いい仲間、いい先輩、いい師匠に出会うことが最高のインプットだと。目標とする方を自分の「ロールモデル」だと捉えて、積極的にコミュニケーションする機会を図ってください」

【5. ポートフォリオ(作品集)チェック会!】

最後に、在校生2名のポートフォリオにアドバイス。

高等部・Tさん「アニメーターになりたいです。作品では『メイドインアビス』が好きです!」
瀬下監督「もしも現時点で明確な目標が定まっていないのであれば、好きな作品を作るスタジオに入るためにはどうすればいいのか?を調べてみてください。『メイドインアビス』はStudio KADANの兄弟会社で、アニメーション制作会社『キネマシトラス』が制作しています。入りたい企業を明確にして、逆算して計画を立てるのがいいと思います!」
2人目は、3年制CGアニメーター2年次・Oさん。Blenderで制作したアニメーションを披露しました。

瀬下監督は制作意図などをヒアリングし、「あなたが好きな作品を作っている制作会社が『こだわっていそうなところ』を模倣してみるといいかも知れません。ワンカットだけでいいので。『こだわり』が相手先との話題のきっかけになり、コミュニケーションが盛り上ってチャンスに繋がるんじゃないでしょうか?」とアドバイス。

業界を目指す在校生にとって、「好きを仕事にして一生食べていくためのノウハウ」を具体的に教えてくださいました。
瀬下監督、貴重なアドバイスをありがとうございます!

トップクリエイターから直接指導を受けられるのも、KADOKAWAアニメ・声優アカデミーで学ぶ価値のひとつです!
アニメ業界に興味のある方は、この機会に是非無料のスクールパンフレットを取り寄せて詳細をチェックしてください!

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