バンタンのゴールデンウィークセミナーとして、KADOKAWAアニメ声優アカデミーへの入学を検討する主に中高生向けに行う「ドローイングイベント」。
目の前でプロの方が描いている様子を見るというもので、参加された方々の今後の道標になるようなお話をしていただきつつ、作業していただきました!
今回講師として招いたのは、イラストレーターのしまエナガさん。
株式会社コナミデジタルエンタテインメントで勤務されたあとに独立。KADOKAWA作品としては『ゲーム世界に転生した俺が〇〇になるまで』の表紙・挿絵を担当されました。
さらに、お話を伺ってみると、これまで携わった作品は多方面にわたっている方!
会社員時代にはイラストの作画・監修・ディレクション、カードイラスト制作などにも関わられ、独立後には楽曲のジャケットやVTuber、NFTアートなどの実績もあります。
そんなしまエナガさんにイラストレーターを目指すようになったきっかけについて尋ねてみました!
■しまエナガさんがイラストレーターになるまで
「子どもの頃から漫画やアニメが好きで、ゲームも大好きなオタクな子どもでした。5~6歳から模写をして、絵ばかり描いていました。中学から高校へ進学するタイミングでは絵を仕事にしよう、という考えしかなく、高校に美術学科があることを知り、専門学校にも見学に行きました」
「株式会社コナミデジタルエンタテインメントに入社してからは、最初は
ソーシャルゲームのカードイラスト制作をしていました。学んできたことが作品となり、世に出てお客さんから反応をもらったときが一番うれしかったです!」
2時間で凝縮してイラストを書き上げていただきます
しまエナガさんにいくつかの質問を投げかけたあとは、早速絵を描いていただきます!
プロのイラストレーターでも通常では2時間では難しいなかで、今回は特別に凝縮して行っていただきました。
イベント用に絵を作成していただくにあたり、
用意されたラフは、「ルームメイトに起きたところを見られちゃった女の子」というゆるいコンセプトのもの。
しまエナガさんは、普段男の子の絵を描くことが多いそうです。
しかし、一般的には女の子を描く人が多いので、イベントの場で見せるようなときは、女の子を描くようにしているとのことでした。
■イラスト制作の仕事ではレイヤー分け必須
製画を進めていくにあたり、レイヤー構成は顔のパーツごとに分けています。(レイヤーとは透明の下敷きだと思ってください。)
レイヤー分けをする必要性としては、イラスト制作を仕事とする場合、クライアントの要望で修正作業が発生することがほとんどだからということです。
「納品して1発OK」というのは稀なことなので、あとから修正ができるようにレイヤー輪郭や髪の毛などを細かくレイヤー分けをします。
しまエナガさんはいつも顔から描いており、そのなかでも目を先に描き、頭と整合性が取れているかどうかを確認するそうです。目に一番時間をかけるといってもよいくらい、「目は重要なパーツ」とのこと!
そして「色の見本も持ってきました!」と、画面横にパレットを配置します。
■時間短縮のためのテクニックを伝授
イベント中には、ソフトの機能も駆使して進められました。CLIP STUDIO PAINTの機能では、ざっと囲ったところの線画が自動で把握され、そこを塗り潰してくれる機能があり、それを使うことにより時間を短縮することもできるのだといいます。
「ショートカットキーも使用したり、家の環境では左手デバイスを設置したりして、それを短縮キーとしています」
絵を描く順序は顔が先、目や髪はとくに重要
「最近のイラストは絵の情報量が多いので、全部完成させてから次に行くのではなく、一旦は目を終わらせたあと、他の部分を描いて、また何度も何度も目に戻ったりします」
「目は一番注目を集めるパーツですので、時間をかけます。そして、髪の毛は絵全体に対しての面積が多い部分なので重要です」
司会:「ところで線を描くのは難しいですよね。線の練習はされていますか?」
「株式会社コナミデジタルエンタテインメント時代に恋愛シュミレーションゲームの作画をしたときのことですが、そのチームは作画が厳しいことで有名でした。線の監修が厳しく、【一筆できれいに描いてください】
と指摘され、鍛えられたと思います」
■会社員としての経験
会社員としての経験のなかでは「自分の好みよりは人に手にとってもらえる作品を作らないといけないということがあり、世間の好みに合わせていくことが大変でした」と語ります。
また、作画監修の方や、上司に指摘してもらったことが生きている、と実感することも多々あるそうですよ!
■髪を塗り潰すコツは?
「とにかくあとから直しやすいように、前髪と後ろ髪でレイヤー分けをします。普段は毛束感のあるブラシで書くのですが、ここでは消しゴムで少し線を入れるなどして髪の毛の隙間を作ります。後ろ髪は塗り潰してしまいます」
「髪を描くときに線画に集中してしまうと軽さが出ずに、固く重く、となるので、もっと動きを出したいときには塗りから入ります」と、ところどころでいろんなテクニックが紹介されました!
司会:「首から下を描くのが苦手というのは、どうしたら解決できますか?」
「人物の絵を描くときに変なところがあると、すぐに気付かれてしまうものなので、デッサンの練習をしてみると良いと思いますね。ですが、やりすぎると、ガチガチに固くなってしまうこともあります。基礎をやったうえで崩す、というのを学ぶことには意味があると思います。上手くいかないときは、基礎に立ち返ってやってみてはいかがでしょうか?」
髪の毛から肌へ
「髪の毛は5割、8割くらい進んできたので、ここから肌を塗っていきます。肌も丸く囲うようにして、ツールでバッと塗ります!」
「窓から光を受けている部分以外は、ざっとツールを使って塗り潰してしまう。こんなふうに普段から頭まわりを確定させながら…という描き方をしています」
手などのパーツについて
「手は画面のボリュームを出すのに良いツールなので、手は描けるようになると良いと思います!」
司会:「足も難しいですよね。裸足を描くのは苦手という人もいるかと思います」
■難しいときはツールを使用してみる
「難しいと思ったらツールに頼るのも良いと思うんですよ。クリスタにも素足のレイヤーもあるので。もちろん自分で描いても良いですが、ツールを使っても良いです。ツールを使うことで目が肥えて上手く描けるようになることもあります。自分の目を肥やすことが、デッサン力を養うことだと思っています」
―ドローイングイベントは中盤へ突入
手の範囲が確定したら、指の間から出ている髪の毛を、手と髪が重なる部分も、と違和感がないように描き加えていきます。
ここで開始から1時間15分が経過。首元に線を入れ、指の輪郭を描いていきます。
「絵の先生からすると【全体を見るようにして仕上げましょう】という人もいると思うのですが…」と前置きしたうえで、しまエナガさんはこのように語ります。
「イラストを見るポイントは決まっていて、顔まわり、目が第一印象で、目鼻立ちが大事です。それ以外はあまり書き込む必要がない、ということです!」
■絵を描く前の情報収集が大事
しまエナガさんが大事にしていることやこだわりについて尋ねました!
「世の中で一般的に受け入れられるものを考えて、世の中の絵柄の研究をよくしています。描く作業というよりは情報収集にこだわりを持っています!」
また、Web上では鮭の切り身が一周している絵などが話題となっていましたが、それについては「画力とはまた違った知識をつけることは大事かな、と思っています」
「私でも影の入り方がわからないときは、実物を作ってみて観察する、というのをやってみています。3Dデッサン人形に光を当てて、とか、そういう研究熱心さが、修練を積ませてくれるというか、絵を描く前段階が重要だと思いますね」
■インスピレーションをどのように得るか
「最近は『絵師百人展』を見てきました。上手い人の絵を観て「描きたいな」というモチベーションを上げるのが大切です」
「表現が足りないなと思ったら、他のプロの方はどういう仕上げ方をしているのか、ということを見ますね」
「構図は枚数をこなしていかないとわからないので、バリエーションを自分のなかで増やす。ですが、ついつい自分の癖が出てしまい、似通った構図になってしまいがちです。そんなとき他の作家さんはどうやって描いているのだろうと見るといいですよ。何となく見ると、観客としてみてしまいますが、【研究するぞ】と思ってみると、【すごいテクニックを使っているのだな】と発見があります!もちろんトレースはあり得ないことですけどね」
■今の世の中の潮流を研究
「自分の好きな作品ばかりを追うと、気づいたら時代に取り残されてしまうこともあるので、話題となっている作品を今の世の中の潮流として研究しています!」
「80年代の作品よりも、今の作品のほうがハイライトやまぶたまで繊細に書き込んでいます。昔はそれでよくても、みんなのレベルが上がっていくので、絵柄を刷新していかないといけないな、と思います。アニメなどもできるだけチェックし、研究、研究で、ここまで来ているんです」
―ドローイングイベントは仕上げの段階へ
司会:「だんだんと髪の毛に立体感が出てきましたよね」
「指に髪が絡むところを入れていく。全部まんべんなく、平たく塗ると平面的になってしまうので、そんなところを注意しながら…、そして腕を塗っていく。それも光があるところとわかれている感じです」
「仕上げの作業は、完成に向けて塗った女の子に照明を当てたり、際立たせたりするようにする。すると、主役の女の子が、より表紙にふさわしい感じになってきます。時間があれば髪のほつれを足してあげたりしてください!」
最後にラフを見せて、仕上がりの絵と対比させる形でスクリーンに表示。
「これで完成です!」
■仕上げ工程はお客さんだと思って満足できるか
司会が「在校生は仕上げの部分をしっかりやらない人が多いんですよ」と。
「仕上げ工程は、納品を経験しないとわからないかもしれないですね。塗り上がったら達成感が出るので【課題が終わった!】ってなりやすい。仕上げはそこで少し引いて見て違和感がないかどうか、お客さんだと思って満足できるかどうかを見直す機会になるので、それは必要だと思いますね」
―最後はしまエナガさんから、メッセージをお願いします
「今回ライブドローイングを見てくださって、過去の自分を見ているような気がして懐かしい気持ちでいっぱいです」
「今後イラストを描いていくと思いますが、新しい着眼点を見つけたり、それを研究したり、新しい方法をトレーニングしてみたり…。
基礎を積み続けている方が第一線で活躍し続けると思うので、絵が好きな気持ちでたくさんイラストを描き続けてほしいなと思います!」
最後にしまエナガさんから温かいエールをいただきました!参加されたみなさんもありがとうございました!