作家を目指すなら、今日から何を始めればいいのか。書き始めた作品を、どうすれば最後まで書き切れるのか。そのヒントを教えてくれるのが、MF文庫Jの創刊編集長を務めた編集者・三坂泰二さんです。KADOKAWAマンガアカデミー ノベルコースで続く特別講義の2回目。作家になるための心得と創作論、そしてアニメ化の仕組みまで、ノベルコースのメンバーに向けて語った講義を追いました。
1.書くことは技術。書けば書くだけ上達する
まずは「作家になるための心得」から。三坂さんが挙げたのは、情熱があること、書くことと読むことを好きになれること、アイデアの引き出しを持つこと。
三坂さん「書くことは技術です。書けば書くだけ上達します。そして、1作だけではプロになれません。長く続けるためには、アイデアの泉が必要です。作家は博覧強記の勉強家。何かニュースがあったら、その裏まで考えてみてください」
例に挙がったのは、冲方丁さんの『天地明察』や、三浦勇雄さんが刀鍛冶に所作を取材して書いたライトノベル『聖剣の刀鍛冶』。読むことは学習だとも語ります。豊富な語彙や言語感覚は、読むことで養われます。
2.職業作家とは、サービス業
三坂さん「職業作家とはサービス業です。『自分が面白い』ではなく『読者がどう感じるか』。『孤高の芸術』ではなく『人気商品』を作るつもりで書いてください」
身につけたい習慣は、毎日のネタ探しと、決まった時間に机に向かって決まった文字数を書くこと。最初は10分でも20分でも良いといいます。
三坂さん「すごく難しいことではないけれど、続けられる人は少ないです。続けた人がプロになれます」
モチベーションを上げる方法も具体的です。気持ちの上がる作品に触れること、同じ目標を持つ仲間と悩みを共有すること、そして読者の反応を見ること。書きかけの作品でも、同級生や投稿サイトで誰かに読んでもらうと、やる気が出るそうです。
「お金がもうかる」「自由に暮らせる」可能性も、作家のモチベーションの一つ。例えば、全世界で3000万部発行されているライトノベルなら、1冊60円の印税でも18億円。アニメ化されれば、二次利用などで数千万円から億単位の収入になり、家を現金で買う作家や、FIREした作家もいるそうです。ただし自由に暮らせる反面、自己管理が欠かせないといいます。
3.完璧を目指さず、まずは10万字を書き切る
そして初心者に何より大切なのが、完璧を目指さないこと。
三坂さん「皆さんの段階では、書き切る経験が大切です。どんな内容でも、本1冊分を書く経験はすごいことなんです。例えば1日4000字、原稿用紙10枚分なら、10万字で25日。見直しに1カ月かければ、完成までに最低2カ月かかります。締め切りから逆算して書き始めてください」
テーマに悩むなら、賞を取るためではなく経験のために、書きやすいものを。これまでの人生をセミフィクションで書く私小説なら、取材をしなくても書ける。二次創作から入り、投稿サイトからプロになった作家も多いといいます。
三坂さん「作品の面白さは読者が決めます。プロの作品でも面白さに波があるのは当たり前。プロは、ギリギリまでがんばって締め切りのときにできたものがベストなものなんです」
デビューの道筋は、新人賞への応募(公募)と、Web小説の投稿サイトの2つ。公募は希望するレーベルでの出版につながりやすく、投稿サイトは時期を問わず作品を発表できます。
三坂さん「両方やって良いと思います。目指すレーベルがあるなら、新人賞に応募してみましょう」
4.“売れ線”要素は8割、オリジナリティは2割
事前アンケートで寄せられた質問にも、一つずつ答えていきます。自分の好みと流行のバランスについては……
三坂さん「書きたいものを書いてヒットする天才もいいます。もし自分がそうでなくても、売れ線だけでは埋もれてしまいます。目安は8割を売れ線に、2割をオリジナリティに。新しい設定やキャラクターがあると、ヒットにつながります」
今後の流行については「自分で調べて、考えてください。プロも自分で考えています」。文章力を鍛える習慣としては読書を挙げ、同じ見開きの中に同じ言葉を使わないよう意識すると良いと助言しました。
事前アンケートには、編集者との関わり方についての質問も寄せられました。三坂さんによると、編集者が原稿で指摘することが多いのは、大きく2つだといいます。
三坂さん「1つは、作家さんの知識不足です。例えば、政財界の大物が集まるパーティーのシーンを書いたとします。そのパーティーに参加したことがなく、映画やマンガで見た場面を基に書いていると、必ずしも正しくないんですね。そういうときは『ちゃんと調べてください』と言います」
もう1つは、作家の頭の中にある設定と、原稿に書かれていることのずれ。物語の全てが頭に入っているからこそ、何を書いて、何を書いていないのかが見えにくくなります。作家がどれだけ説明しても、原稿に書かれていないことは、読者には伝わりません。
5.アニメは大勢のクリエイターとの共同創作物
講義では、アニメ化の仕組みもひもときました。アニメ化は、担当作をヒットさせたい出版社の編集者や、原作を探している映像メーカー、アニメスタジオ、テレビ局、配信会社などの中からキーマンが仲間を集め、おおよその「座組み」を作るところから動き出します。確度が高まった段階で編集部を通して原作者に許諾を求め、許諾が得られて初めて、正式に製作委員会が組成されます。
製作委員会とは、1クールで5億~10億円近くかかることもある制作費のリスクを分散するため、複数の企業が出資して作る組織です。
アニメ化が決まると、原作者も作品づくりに関わるスタッフの一員になります。主な仕事は、キャラクターなどの設定やシナリオ、絵コンテ、完成映像をチェックする「監修」です。
三坂さん「原作者は最大限リスペクトされます。でも、アニメは監督をはじめ大勢のクリエイターの共同作業で、それ自体が別の創作物です。
原作者は主要なスタッフですが、スタッフの1人。現場ではポジティブに意見を交換しながら、より良い作品を作るために協力し合うのが良いと思います」
作家になるための心得から、アニメ化の現場の「業界慣習」まで。
ノベルコースのメンバーにとって、プロの世界への解像度が上がる講義となりました。
【PROFILE】
三坂泰二さん
編集者。1962年山口県宇部市生まれ。1986年リクルート入社、『ab-road』『ゼクシィ』などを担当。2000年メディアファクトリーに出向し、『コミックフラッパー』で和田慎二さん、安彦良和さん、島本和彦さんらを担当。2002年にMF文庫Jを創刊し編集長に就任。2006年『コミックアライブ』創刊、2011年取締役、同年『コミックジーン』創刊、2013年『MFブックス』創刊。
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