26.08.27 26.09.02 更新

「作家になることは、出版業界に『就職』すること」編集者・三坂泰二さんが語る、出版業界とライトノベルのいま

スクールライフ
授業/特別講師/講演会

KADOKAWAマンガアカデミーで出版業界をテーマにした特別講義が行われました。講師は、MF文庫Jの創刊編集長やKADOKAWAのライトノベル事業局の局長を務めるなどした、ベテラン編集者の三坂泰二さん。ライトノベル作家をはじめ出版業界を目指す在校生に向けて、業界の現在地からライトノベル60年の歴史まで、クイズを交えながら語られた講義をレポートします。

【目次】

1. 出版業界の売り上げは、約1兆5,000億円
2. 2026年夏アニメの約40%は、ライトノベルが原作
3. ライトノベルは、自由度が高くて懐が深い
4. ジュブナイルSFから異世界転生まで。ライトノベル60年の歴史
5. 過去のヒット作にさかのぼると、創作のヒントが見つかる

1. 出版業界の売り上げは、約1兆5,000億円

「出版業界全体の売り上げは、いくらくらいだと思いますか?」。講義は4択クイズから始まりました。正解は約1兆5,000億円(2025年)。「トヨタは1社で年間50兆円を売り上げます。出版のうちコミックが7,000億円と、半分弱を占めています」と三坂さん。業界の数字を知っておくべき理由について、「作家になることは、出版業界に就職することでもあります。自分が目指す業界の経済的な状態について、知っておくことは損にはならないと思います」と解説。

出版物の売り上げはピークだった1996年の約58%の規模まで減少。一方で2014年以降は電子書籍が急伸し、特にコミック市場は大きく成長しているといいます。

2. 2026年夏アニメの約40%は、ライトノベルが原作

続いてはコンテンツ産業について。国内市場規模は12兆4,418億円(2022年時点)、うちアニメ産業は約4兆円規模(2024年、3兆8,407億円)で、この10年で約2.3倍に。
海外比率は約56%に達しているそうです。
「コンテンツ産業で稼いだお金で、食料や石油を買うことができる。だから日本政府も戦略分野のひとつに掲げています。この夏に放送が始まった新作アニメのうち、ライトノベル原作のシェアはどれくらいでしょう?」とクイズも出題。正解は約40%。スライドで示された「2026年夏アニメ 原作カテゴリー別シェア」によると、新規放送された73本のうち、ライトノベル原作は28作品(38.4%)、コミック原作は35作品(47.9%)。「日本のアニメはライトノベルとコミックが支えている」という言葉どおり、合わせて9割近くを占めます。
背景にあるのが、権利ビジネスの成長です。
本の売り上げは減少していますが、今の出版社の売り上げは、本のだけではありません。作品を映画やアニメ、ゲームにした権利収入が、売り上げの20〜30%を占めています」

「小説を書いて終わり、という時代は終わっています。小説は文字ですが、アニメになり音がついて絵が動くと、ユーザーの満足度が高くなる。『メディアミックス』を考えて創作することが、小説を書くうえで大切です」

3. ライトノベルは、自由度が高くて懐が深い

「では、ライトノベルとは何でしょうか?」という問いかけに、
「キャラクターが立っている小説」「中高生向け?」と学生が答えていきます。

「どれも正しいですね。ライトノベルの概念は、今どんどん広がっています。『オーバーロード』のようなWeb小説の単行本や、キャラクター文庫、探偵ものや時代ものも、広く言えばライトノベルの一種と見られるかもしれません」
日本には約3,000社の出版社があり、「GA文庫やHJ文庫、女性向けなら角川ビーンズ文庫や、スターツ出版文庫など、多様なレーベルがあります。一迅社文庫アイリスの『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』がアニメでヒットして、女性向けの異世界ものが当たると分かりました。富士見L文庫の『わたしの幸せな結婚』は、実写映画も大ヒットしましたね。ライトノベルは非常に自由度が高くて、懐が深いのが特徴です。キャラクターが立った小説であれば、広い意味ではライトノベルと言える。皆さんがライトノベル作家を目指す、目指さないにかかわらず、活躍の場は非常に広いと考えてください」

4. ジュブナイルSFから異世界転生まで。ライトノベル60年の歴史

ライトノベルのルーツは、1960年代のジュブナイルSFにさかのぼります。団塊世代に向けて、小松左京さんや平井和正さんらが作品を発表。80年代後半にはスニーカー文庫とファンタジア文庫が創刊され、『ロードス島戦記』や『スレイヤーズ』が誕生。90年代には団塊ジュニアの成長に合わせてレーベルが増えていきます。そして2000年代は、ライトノベルの隆盛期。MF文庫Jを創刊した三坂さんは、読者の変化を肌で感じていたそうです。「創刊からしばらく読者モニターを行っていました。ライトノベルを読んでいるのは、1クラス40人のうち3、4人くらい。でも『バカとテストと召喚獣』が大ヒットしてからは、アウトドア派の同級生が『バカテス貸してくれ』と借りに来るように。つまりライトノベルが一般化してきました」
『涼宮ハルヒの憂鬱』も『灼眼のシャナ』も『ゼロの使い魔』も、2005年から2006年にかけて相次いでアニメ化。「アニメを見た新規読者が、大量に流入したのが2000年代ですね」

2010年代は成熟期。紙のライトノベルの売り上げは2012年時点で約284億円とピークを迎え、『ソードアート・オンライン』などWeb小説発の作品が台頭します。
2020年代は「残念ながら停滞期になってしまったんです」。
昨今は、『小説家になろう』や『カクヨム』発の作品が売れ筋の中心となり、異世界転生ものや、ステータス画面が出てくるゲーム世界ファンタジーが増えているそう。
現在の市場規模は、電子を合わせて約255億円(2025年推計)。『狼と香辛料』のように時代を超えて読み継がれ、世界にファンを広げる作品も生まれています。

5. 過去のヒット作にさかのぼると、創作のヒントが見つかる

歴史を振り返ったうえで、三坂さんは「過去のヒット作をさかのぼって読みましょう。0から1を作る時は、自分の中にインプットされたものから新しいものが生まれます。10年単位でさかのぼって当時のヒット作を見ていくと、今の流行の源流が見つかると思います」と呼びかけました。
学生からは「ライトノベルを書くうえで大切なことは?」と質問が。
「魅力的なキャラクターを生み出すことだと思います。ひとつは共感性。ほとんどの読者は主人公に自分を重ねるので、『いいやつだな、応援したいな』と思われることが大事です」
講義は、「ぜひメディアミックスを目指せる小説家になってほしいと思います」とのエールで締めくくられました。

参加したノベル・シナリオ専攻の小島さんは、「脚本家やシナリオ執筆に興味があって、出版業界で働けたらと思いました。ちょうど新人賞にも応募しようと思っていたところ。現実的な数字とともに業界を解説してくださり、非常に分かりやすかったです」と話してくれました。

長く業界をリードしてきた編集者の、数字に裏打ちされた言葉の数々。それは、これから物語を書き始めるメンバーたちの背中を押してくれました。

【PROFILE】

三坂泰二(みさか・たいじ)/編集者。1962年山口県宇部市生まれ。リクルートで『ゼクシィ』などの情報誌事業に携わったのち、2000年にメディアファクトリーへ。コミック誌『コミックフラッパー』で和田慎二さん、安彦良和さん、島本和彦さんらを担当し、2002年にライトノベルレーベル『MF文庫J』を創刊して編集長を務める。その後も『コミックアライブ』『コミックジーン』『MFブックス』の創刊を牽引し、取締役としてアニメ・コミック・ライトノベルのクロスメディア事業を管掌。KADOKAWA合流後はライトノベル事業の初代局長。現在はさまざまな企業の顧問を務める。

【関連記事】

シェアする