井上伸一郎アカデミー長による特別講義「アニメの歴史・現在・未来」

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授業/特別講師/講演会

KADOKAWAアニメ・声優アカデミーでは、業界で話題の方やプロの現場の第一線で活躍する方を招いて定期的に特別講義を実施しています。
夏真っ盛りの季節に、ぎっしりと埋め尽くされた会場で、今回は井上伸一郎アカデミー長の講義が始まりました。

「ものごとには因果があります。歴史を知れば、それがよくわかります。」
講義は井上アカデミー長のそんな一言から始まりました。

「今はインターネットで検索するとか、生成AIに聞けば、すぐに答えが見つかる時代です。しかし、結果だけでなく『なぜそうなったのか』という原因を考える習慣を持つことが大切です」と語ります。
さらに「アニメや映像作品の歴史を学ぶことは、社会に出ても役立ちます。現場に出ると、最初に出会うのはほとんどが年上の方々です。昔の作品を知っていることで、そこから会話が広がることもあります」「だから過去の歴史を知っておくことは仕事の上でも大事です」と、学生たちに呼びかけました。

◆日本のアニメの歴史

講義は日本のアニメの歴史へ。12世紀の絵巻物『鳥獣戯画』までにさかのぼり、さらに江戸時代の「草双紙」の赤本や黄表紙の流行が、現在のアニメ・漫画文化へとつながっていたことを紹介します。

近代に入ると、大正時代の1917年に下川凹天、幸内純一、北山清太郎らが日本初の近代アニメーションとなる切り絵アニメーションを制作します。太平洋戦争中には、アニメが戦意高揚に利用されました。1945年4月に公開された『桃太郎 海の神兵』が日本初の長編アニメ映画と言われています。

戦後の1958年には日本初のカラー長編アニメ映画『白蛇伝』が公開され、宮崎駿監督がアニメの世界を志すきっかけになった作品としても知られているそうです。

◆テレビアニメのために漫画が作られる時代へ

テレビアニメの黎明期となる1963年には『鉄腕アトム』『鉄人28号』『8マン』などが立て続けに放送されました。とくに『8マン』は連載開始から数か月で放送が始まっていることから、漫画と連動してテレビアニメが企画されたと推定されます。
そしてテレビアニメはスポンサー企業の存在の重要性にも言及しました。『8マン』は丸美屋がスポンサーとなり、「のりたま」にキャラクターシールを付けた商法を行っていて、シール欲しさに「のりたま」をご飯にふりかけて食べたことを、今でもよく覚えているといいます。こうした商法は現在にも通じています。

――初めてカラーのテレビアニメとなった作品はなんでしょう?
「埼玉県」「西武線」などとヒントを交えて投げかけると、会場からは『ジャングル大帝レオ』との声が上がってきました。この作品では三洋電気がスポンサーでした。「ジャングル大帝」を視る家庭に、自社のカラーテレビを普及させるという目論見がありました。

「カラーテレビを売るためのCMをカラーのテレビアニメで流す、テクノロジーの進化とスポンサーの戦略をつなげて考えていくことで、『これからはこうなる』という予測ができます。つまり、歴史は未来を知るために勉強したほうがいい、ということです。」と繰り返しお話しされていました。

1970年代には『マジンガーZ』や『デビルマン』を例に、アニメ放送を前提として漫画が制作されていた時代を紹介。放送期間に合わせて漫画連載が始まり、放送終了と同時に連載が終わるので、コミックス単行本数巻で終わった連載も多かったそうです。

1980年代になると『Dr.スランプ アラレちゃん』をきっかけに、「アニメ化すると漫画がさらに売れる」という流れが生まれ、『ドラゴンボール』『キン肉マン』『キャプテン翼』など、数々の人気漫画がテレビアニメ化され、週刊少年ジャンプの黄金時代が到来します。

1990年代。井上アカデミー長自身が創刊編集長となった『月刊少年エース』では、「同時期に創刊するライバル雑誌に対抗できるように」と、連載する漫画作品を一刻も早くアニメ化するために様々な手段を用いました。こうしたメディアミックス戦略が功を奏し、創刊誌は軌道に乗りました。過去の歴史を知っていたから、過去のメディアミックスの成功例を、その時点での最新バージョンに置き換えることができた、と語ります。

◆2000年代以降のアニメの変化

2000年代になるとメジャー少年誌以外からも漫画原作の人気アニメが続々と誕生する時代になりました。大人の女性向け漫画原作からもヒットアニメが誕生します。『鋼の錬金術師』『NANA』『涼宮ハルヒの憂鬱』などが、この時代の代表的な作品です。

また『らき☆すた』をはじめとする作品で、「聖地巡礼」というムーブメントが出てきたことも2000年代の特徴です。フィルムカメラからデジタルカメラの時代となり、デジタル写真のデータを活用した背景画づくりが行われるようになりました。実際の風景をそのままアニメの背景として使うアニメが増えたことが理由のひとつといえます。
2010年代では、2015年以降に本格的な動画配信時代が始まります。2020年代初頭にはコロナ禍で巣ごもり需要が定着し、日本のアニメが海外でたくさん見られるようになりました。この時代に日本のアニメの面白さに気づいた海外の人も多いのだといいます。

◆アニメの現在とこれから

現在は漫画やアニメがジェンダーレス化し、ボーダレス化しています。かつては「少年」「少女」などという枠がありましたが、今では男性でも女性でも性差を超えて見られる作品が増えています。また、デジタル時代になり、電子書籍や動画配信で過去の名作の人気が復活し、現在の作品ともライバルになり得ます。

そして学生たちが気になることは、業界での就職です。
かつてアニメーターを目指す若者は「アニメーターとして絵を動かしたい」ということがモチベーションになっていましたが、最近では「○○のキャラクターを描きたい」というふうに変わってきています。これは動画配信時代になり、テレビ放映主体の時代に比べて作品のロングライフ化が起こっている現象とリンクしています。人気アニメは続編が作り続けられるため、作品生命が長くなっているのです。

アニメーターは絵を上手に早く描くことが求められます。しかし、絵が上手なだけでは、現場に入って通用するわけではありません。現場では多くの人と長期間にわたって付き合います。「この作品はこのように作ってください」などディスカッションを交えながら仕事は進んでいくので、最低限のコミュニケーション力が必要となります。

これからは生成AIが普及するなかで、クリエイターが一人で作るアニメが増えていきます。生成AIの活用のルールは業界でまだ定まっていませんが、皆さんが就職する数年の間に、大きく変化する可能性があります、とのことでした。

今回の井上アカデミー長の講義では、アニメや映像作品の歴史を学ぶことにより、現場で年上の方々とのコミュニケーションが円滑になるといったことを伝えてくださりました。井上アカデミー長、ありがとうございました。

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