レイヤーは分けない。はみ出した色も、消さずに味に変える。
人気イラストレーター・22(ツーツー)さんの絵は、独特の技法で生まれています。8月23日、KADOKAWAマンガアカデミーのイラスト体験イベントに登壇した22さんは、「夏休み」をテーマに約40分でイラストを制作。
色づいていくライブドローイングのあいだ、ペンを動かしたまま参加者の質問に一つひとつ丁寧に答えました。
1.レイヤーは分けない。「はみ出しも、味になる」
22さんはアナログ出身。デジタルに移った今も、その質感を残すことをいちばんのポイントにしています。「描いている最中の“偶然感”がいい絵になったりします。なので、できればもう一発で描きたいなと思っています」。
間違えたときのためにレイヤーを分けて保険をかけたくなるところを、あえて分けない。
これもイラストレーターの個性の出し方のひとつです。
着彩も、バケツツールを使わず、ペンで色を置いていきます。
「効率がよくて手間は省けるんですけど。オリジナルを描くときは、はみ出したところも味になるので、逆に利用して、ちょっと気の抜けたような感じにしますね」。ツールは、「いちばんアナログに近かった」というProcreateを選んでいます。
色づかいにも独特のルールがあり、「なるべく色のトーンを合わせるように。ここに赤があるから、ここにもちょっと赤を入れようとか、ちゃんと色を拾うようにしています」。この日のイラストでは「小物の色が強いので、人物の格好は全部グレートーンで合わせて、小物に目がいくようにしています」と、どのパーツを立たせるかを緻密に計算。色彩感覚は「映画を模写して」養ったそう。映画好きは構図にもいきていて、「この画角いいな」というカットをドラマや映画から取ってくることもあると言います。
ちなみに描くモチーフはイケメンが多め。昔のハリウッド俳優を見るのが好きで、その影響だそうです。
2.毎日1枚、3カ月で最初の仕事に
絵を描き始めたのは4、5歳のころ。テスト用紙の裏への落書きから始まりました。会社勤めは経ずに「フリーターからでしたね」とイラストの道へ。転機は、SNSでの毎日投稿でした。
「最初は本当に、1枚絵を描いて、毎日あげるということを意識していました」。活動を始めてから最初の仕事にたどりつくまで、わずか3カ月。ただし、続け方に工夫がありました。
「ただあげるだけにはしないというか、毎回自分の中で、こうした方がいいなと修正点を出しながら毎日あげる。そうすると自分の描きたいスタイルも見つかってくる。出すことだけが目的にならないように注意していました」と振り返ります。
反応が伸びない時期も経験。
「最初は全然見られなくて。なんで見てくれないんだろうとか。あげる時間帯とか、すぐ目に留まるようなイラストとか、今のトレンドを意識して描いたりもしました」。
家族の理解も、作品で得たと言います。「SNSを最初に教えて。言葉で説明するよりも、これだけ本気なんだよ、こういうふうに仕事を取っているんだよという過程を見せていきました」
3.ラフは3時間、リサーチは1日以上。仕事の裏側
クライアントワークでは、ラフを3パターンほど作って選んでもらいます。「テーマの指定があるとイメージがつきやすいので助かります」。
意外だったのは、描く前の時間のかけ方です。「リサーチには1日以上かけますね。いろんな本や映画、Pinterestで資料を探して、こういうものがきっと求められているんだろうと想像しながら」。影の付け方も、観察の積み重ねで「夏のシーンだったらこういう影が落ちるだろう、曇り空だったら影はあまりないだろう、とか考えています」。
続いては、背景の有無について。「背景でストーリーを見せることもあります。例えば、雨が降って建物の感じがあると、エモい感じになったり。今回は夏休みの男の子がメイン。これだけでも情報が十分にあるので、色だけにしました。その子のキャラクターが伝わる方がいいですね」。もしもつけるなら?と聞かれると「海ですね」と迷いなく答えました。開始から40〜45分、「あとは整えて、色味を調整していきます」と、イラストはほぼ完成しました。
4.描けるようになると、楽しくなってくる
ライブドローイングの合間には、参加者からの質問に一つひとつ答えます。
——人物を描く上達方法は?
「毎朝、ジェスチャードローイングをやっています。箱や球体などの立体物を10分、人物を1分で10体、手や足のパーツも1分で10体。合計30分を毎朝。
嫌でも1日に10体、いろんな角度の全身を描くので、だんだん体に染みついてくるんですよ」
1日の作業時間は平均6〜8時間、忙しいと10時間を超えることも。
それでも「苦ではなく、毎日楽しみでやっている感じなんです」
——フリーランスにはライバルや同期がいません。練習を続けるモチベーションは?
「練習していると、自分が目指しているものにだんだん近づいてくるじゃないですか。僕は映画が好きで、映画みたいな絵を描きたかったら構図とか背景の練習をする。描けるようになると、楽しくなってくるんです」
——絵が嫌いになったことは?
「ありますよ。SNSには、うまい方たちが多いので、自分の絵と比べてしまうと引っ張られます。でも、一瞬嫌いになっても、根本的には好きなんです」
——自分の個性が見つからない人へ、アドバイスは?
「自分の好きなこと、普段何が好きなのかを知ることは重要かなと思います。
それを絵に入れてみたり、好きなものを研究材料にしていってください」
後半は、参加者が描く時間。手元に配られた22さんの線画イラストを模写したり、自分の「夏休み」を描いたり。22さんが席を回ってアドバイスし、参加者同士で描いたものを見せ合う場面や、保護者が一緒にペンを走らせる姿もありました。
偶然のはみ出しを味に変えるアプローチも、アナログの質感を残す色づかいも、いわば22さんの絵の「レシピ」そのものです。
その技術を惜しみなく受け取った参加者は、それをヒントとして自分の作品を描いていきます。
【PROFILE】
22(ツーツー)さん。
MVや広告、映画ビジュアルなど幅広い分野で活躍する人気イラストレーター。
X:https://x.com/twetwe__4559