KADOKAWAマンガアカデミーは、業界で活躍するプロフェッショナルから直接指導を受けることができるスクールです。
今回の講師は、同人作家からスタートし、2025年は画業デビュー40周年を迎える業界のトップクリエイター・高河ゆん先生です。
特別授業は、スタッフがインタビュアーとなって進行します。
高河講師(以下同)「高河ゆんです。よろしくお願いいたします」
【1. ルーツについて】

―― 高河先生は、小さいときから絵を描かれていたのですか。
「そうですね、ノートにずっと漫画を描いていました。中学2年生のとき、『少年ジャンプ』に連載されていた『リングにかけろ』にハマりました。メチャクチャ面白くて大ファンになり、作者・車田正美先生に、作品のどこが良かったか?車田先生の絵の模写や感想を書いたファンレターを毎週送っていました。数カ月続けていたある日、車田先生が電話をくださいました」
―― “推し”に認知されたんですね!
「ファンレターに自宅の電話番号を書いていたので、連絡してくださり、『仕事場に来てもいいよ』って言ってくださったんです!自分で言うのは本当に恥ずかしいですが、『この子面白いかも』と思ってくださったんだと思います。先生は途中からファンレターを楽しみにしてくれるようになったそうです」
2015年2月19日発売『チャンピオンRED』(秋田書店)には、30年前に高河さんの描いた『聖闘士星矢』の同人誌が掲載されて話題になりました。
【2. 高校3年生から、商業の道が拓かれて】
「中学を卒業したら、漫画の道に進もうと思っていて高校へは進まないつもりでした。でも、車田先生にも『高校に行ったほうがいい』と言われて。先生=神じゃないですか?なので、仕方なく(笑)高校に進学し、高校時代はずっと漫画を描いていました。部活は陸上部に入りましたが、あんまり練習せず怒られていましたね」

―― なるほど。高校生のときにコミケに出られたのですか?
「車田先生のファンクラブがコミケに出ていたので、ファンクラブの人に会いたくて。イベントに行くようになると面白くなり、私も本を作ろう!と思いました。イベントで友だちもたくさんでき、毎週本を作っていました。今思えば、かなり雑な原稿でしたが、デッサンも数百枚にのぼり、下手なりに上手になっていきました」
月に600P描いていたときもあるそう!しかし……「漫画を描く時間を最大に取りましたが、とにかく寝ていなくて。非常に体調を崩しましたので真似しないほうがいいと思います!」
―― 高校生から商業作家になるまでは?
「3年生の終わりには、商業に足がかかっていました。漫画を描くのにお金がかかるので、バイトをしていましたが、『漫画で食べていけるかも』と思い大学は受験しませんでした」

―― 商業への移行はどのようにされましたか?
「当時、大手出版社は『同人誌出身は…』という考えがありました。一方で、一部の編集者さんは、描けるのでは?とイベントに足を運び始めた時期でもありました。賞は獲っていないですし持ち込みもしていませんが、イベントで声をかけていただき、デビューすることになりました。当時はプロになれると思っておらず、好きな漫画を描いていただけでした」
―― 自分の作品と商業とでやり方は変えたのですか?
「まったくありません。自分の描くものがすべてと思っていて、作品と商業とで差をつけることは一切ないです!」
―― デビューしたら画業だけで生計を?
「そうです。あるお仕事で、1カ月で150Pの描き下ろしを受けたこともありますよ。キツかったですね。サークル仲間6~7人くらいに手伝いに来てもらっていました」

―― 新しいお仕事というのは、どうやって依頼がくるのですか?
「突然、電話をいただくんです。当時、一般的な“プロの漫画家”というものがわからなくて。『プロットをいっぱい持っているのに違いない』と思い、打ち合わせでは、10本プロットを持っていきました。そのうち2-3本が採用され、月刊誌、増刊号、特別読み切りというようにお仕事が増えていきました。1つの編集部で3作品を連載していたりしました」と振り返ります。

【3. 自分が「好きだな」と思う絵を描く】
―― キャラクターデザインもされていますが、題材や時流に合わせて絵を変えますか。
「自分が綺麗だなと思う絵を描いています。そのときどきで好きな絵を描いているので、私自身の価値観の変化によって変わってくると思います。アニメや漫画も数がものすごく多いので、全部見ないようにしていて。自分の好みと向き合って考えるようにしています」
―― 実は……、私自身も『機動戦士ガンダム00』のキャラクターを模写していました!
「最高に嬉しいです!私の漫画を読んでデビューできたと言われるとすごく嬉しくて。私の中で、クリエイターはいわば人類の頂点なんです!お役に立てたらすごく嬉しいです!」

―― 『機動戦士ガンダム00』は、どのような経緯で参加されましたか?
「ある日突然、サンライズさんから『コンペに参加してもらえますか?』と連絡をいただきました。選ばれるわけないと思い参加したら、通ってしまいビックリです。監督からもスタッフとして迎えていただきました。キャラクターデザインは、自分の好きを描くというよりも出力装置になる気持ちでしたが、キャラクターのプロフィールこそあれども、外見設定がまったくなく。『好きに描いていいよ』と言われ、大変楽しかったです。また、水島精二監督がコミュニケーションを大切にする人で。一般的に、原案とアニメーターは一緒に作業したりしませんが、キャラクターデザイン担当の千葉道徳さんともご飯を食べに行ったりと仲良くさせていただきました」
―― 高河先生は、人間好きですね。

「人LOVEってやつです!アシスタントと24時間共同生活でしたし、募集するときの条件は、みんなと一緒にやれる協調性、根性があり、プロ志望の人を条件としていました。最初から上手さを求める人もいますが、経験を積んでいけばみんな上手になります!」
【4. 良い作品を作るために大切なこととは?「きちんとした生活と体力」】

―― 高河ゆん先生が、漫画家志望のメンバーに伝えたいことは?
「まずは寝ること。私はメチャクチャ寝なかったです。若いから、少しの無理はいいと思うけれど、たくさんの無理はしないで。生活をきちんとしたほうがよい作品ができます。良い作品を作るための基礎は、体力と生活なんです。そのうえに、考えることや技術の吸収があります。あとは、長い間続けるために自分の環境を整えて。お金の問題もあります。若いうちは、実家暮らしで可処分所得が大きいです。なかなか漫画家デビューできなかった美大卒の人が、早めに結婚して旦那さまに理解を得てデビューしたこともあります。私は、恋愛推奨派で、アシスタントはほとんど結婚しました!40、50、60才でも続けると思うと、短距離でなくマラソンで考える必要があります。作家として、人生も仕事も両輪で考えて」
―― これからやってみたいことはありますか?
「私は、とにかく描くこと以外で収入を得たくないんです。一生画業でやりたいと思っています。今の野望は、そのときどきの100%出力で死ぬまで描くことです!」
【質疑応答】
ここからは、受講生からの質問を受け付けます!

―― 10個ものプロットをご用意されたとのことですが、発想力はどこから?
「必死に絞り出していました。私は漫画を読むのがすごく好きなので、好きな作品の影響を受けていたと思います。インプットをし、自分的なアレンジを加えていました。たくさん見たり読んだりは意味があるんじゃないかと思います」

―― シナリオライター専攻ですが、シナリオよりも漫画原作者が向いているかなと思って、目指しています。今から準備できることはありますか?
「すぐに、その道にいってしまったらいいじゃないかな?ドンドン経験を積んで。10代から20代の人が失敗しても温かい目で見てもらえますので、どんどん失敗して。シナリオにも、脚本形式、小説形式、台詞だけなど色々なパターンがあります」

―― どんな漫画にニーズがありますか?
「職業としての漫画家と、創作家としての漫画家という二面性があります。創作家は、誰にも侵害されず好きなことをやっていい存在ですが、日常生活に着地させるためには、職業としての漫画家が必要です。ビジネス面では、返事をする、締切を守る、連絡を取れるとか当たり前ができる人間であることがすごく大事です。作品は素晴らしいけれど人間性が無理という先生と、作品がよくて人間がよいなら後者の方が仕事がたえません。仕事は基本的に、人が持ってきてくれるものです。信頼される人間になって。いちばん言われて嬉しかったのは、あなたに仕事を頼んで心強かったですと言ってもらえたことです」

―― 3作品同時進行されていたとき、どのようにスケジュール管理をされていましたか?
「管理できていませんでした(笑)なので、睡眠時間や生活時間を削る力技でした。今は24時間のうち、寝る時間、生活する時間を確保し、無理しないように頑張っています。今から、自分はこういうときにパフォーマンスが落ちるとか上がるとか観察すると良いと思います」

最後に、受講生に向けて応援メッセージを寄せてくださいました!
「世間の評価だけでなく、自分のジャッジがいちばん大事です。自分の作っている作品は正しいと思って。もしも、世間から評価されなくても正しいです。根本的に、私は絶対正しい!と思って描いていってください」


【PROFILE】
東京都出身、漫画家。蟹座のB型。イラスト、キャラクターデザインも手がける。代表作に「LOVELESS」「佐藤くんと田中さん-The blood high school」「車田水滸伝」/機動戦士ガンダム00(キャラクター原案)など。 また心から漫画を愛し、良き読者でもあり続ける。版権作画多数。
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