「スタジオ地図の齋藤 優一郎プロデューサーによる講演会〜アニメ・アニメーションとは何か?」

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今年春に開講したKADOKAWAアニメ・声優アカデミー!
その1期生へ向けて行われた講演会の様子をお知らせします。
今回はスタジオ地図の齋藤優一郎プロデューサーをお招きし、年間を通して3回にわたり、在校生に向けてお話しいただきます。

講演の前に齋藤優一郎プロデューサーが、2011年に細田守監督とともに立ち上げたスタジオ地図を紹介する映像が流れたあと、齋藤さんが登場!

「GW終わって辞めたくなったりしていませんか?」と冗談交じりの投げかけから始まりました。
生徒たちが目を輝かせている様子を見て、「やる気満々でいいですね!」と齋藤さん。

■アニメ・アニメーションとは何か?

齋藤さんが掲げたお題は「アニメ、アニメーションとは何か?」。

技術・表現・ジャンル、ビジネス的見地からなど、さまざまな価値基準がある中で、「これから皆さんが学んでいく“アニメ”、“アニメーション”というものが何なのかということを、一緒に考えてみましょう」という形で始まりました。


「日本だと、もしかしたらアニメーションという言葉より、アニメという言葉の方がよく耳にするかもしれません、でもそれって同じものですか?違うものですか?」
アニメについて齋藤さんが当てた生徒のひとりは「パラパラ漫画」、アニメーションについては、他のもうひとりが「人の心を動かせるようにするもの」と回答しました。
「面白いですね。でもその定義って、話す人によっても全然違うと思う、表現や技法としても語れると思うし、もちろん文化産業としての見地からも語れる」

■米国の識者はどのように「アニメ」を捉えているか

例えば、アニメーション歴史家・評論家であるチャールズ・ソロモン氏は、日本人が日本で作ったアニメーション作品をアニメと表したそう、フランスのシャンパーニュ地方で作られたスパークリングワインだけをシャンパンというように、だから氏は日本のアニメとか、アメリカのアニメという言葉の使い方は間違っていると思うと語ったそうだ。

また、ある人は「漫画原作の映像化」がアニメであり、逆にオリジナルアニメ作品をアニメーションというのだとか、それだけでなく日本独特のアニメ表現こそがそうだとか、多様な意見は尽きない。

また別の見方として、日本という社会や、文化的な歴史背景からアニメを考えると、「街中にこれほどまでにアニメやイラスト、それに類するものが溢れている国というのは、世界中どこを探しても、他にないのではないか」
「日本人は絵巻物の時代から、絵を通して、政から風俗、ありとあらゆるものを絵と物語で表現してきた民族だった」と言うことを語る作家や研究者たちもいる。

■世界におけるアニメの日本でのシェア・世界でのシェアアニメの拡大

「世界の中でアニメはどういう状況にあるのでしょうか?どのくらいの人たちに見られていて、ビジネスとしては、アニメが知られるようになるのでしょうか? 日本のアニメとアニメーションの違いってあるのでしょうか」

「僕はプロデューサーという役割を担っているので、ここからはビジネス的な側面からアニメとアニメーションについて考えてみたいと思いますが、僕は分かりやすく、この二つの違いをマーケットの違いと位置づけています。例えば映画の世界で言うと、アメリカのメジャースタジオが製作するアニメーション作品の予算規模は、大中小ありますが、だいたい70億から200億くらいの間かと思います。昔はもっと巨費だったのですが、最近はこれくらいと聞いています。日本はどうかというと、一般的には2〜5億円程度、また昨今の大作アニメ映画と呼ばれるものでも、おおよそ20億前後と言うのが実体かと思います。もちろん、手描きとCG制作の違いから予算のかけ方が違ってくると言う考え方もあるかと思います。でも僕はさっきこの二つの違いをマーケットの違いとお話をしたかと思います。では日本の映画興行収入というのは全体で幾らくらいかご存じでしょうか?それは近年おおよその平均ですが、2200億円前後くらいと言って良いのではないかと思います。アメリカはどうでしょう?もちろん、人口は日本の倍以上ですが、それは約1兆円規模となります。また近年、世界的に大ヒットした日本アニメ映画の世界興収は約500億円、昨年アメリカで大ヒットしたアニメーション映画の世界興収は約2000億円、大きな違いがあります。でもそれって、興行収入が高いものがアニメーションで、低いものがアニメということを示すものではない。世界で大ヒットした作品が日本というマーケットでは1/10以下という事もありますし、その逆もあるのです。僕は思います。ビジネス的な見地からだけではなく、アニメにもアニメーションの世界にも、多くの多様な作品とそれを生み出すアーチスト達が居て、それぞれによって哲学も技法も文化もマーケットも違うのだと。しかし近年、インターネットや視聴環境の変化により、そのマーケットが変化、僕的には溶け合ってきているように思えていて、それはマーケットの拡大のみならず、アーチスト同士が影響し合い、一緒に制作をするなど、様々な融合が起こってきている。だからこそ、私は今、改めて、アニメとは何かということを日本人が多角的に議論するが大切なんだと思っています。」


「いまアニメマーケットは約3兆円ほどと言われていて、数年後には更に大きく、数倍まで拡大すると言われており、全世界的な空前のアニメブームの様相があります。この拡大の背景には、幾つも理由がありますが、ここ最近の大きな要因の一つとしては、コロナ禍という世界的な変化の中、巣ごもり需要と呼ばれた数年間の間に、ワールドワイド配信プラットフォームを通して、初めてアニメを見知った人も含めたパイが、分母がとても大きくなったということがあります。」

■米国でもオスカーでも「アニメーションとは何か?」という議論が盛ん

「僕はAMPASと呼ばれるアカデミー賞のメンバーであり、プロデューサーのギルトであるPGAという全米製作者組合の会員でもあります。そういった組織の中では、様々な会合があるのですが、アニメーションとは何かという議論は非常に盛んです」

「例えば今、アニメーション作品を作る技術というのは本当に多様です。日本では基本的に手描きの作品が主流と思いますが、米国ではCGアニメーションが基本であり、その作り方はより複雑になってきています。例えば、何年か前にディズニーがCGで制作した「ライオンキング」は、実写なのか?それともアニメーションなのか?という議論がありました。昨今では、当たり前のように、CG、ゲームエンジン、AIなど、様々な技術を使って、実写もアニメーションも作られています。」

「実写のアベンジャーズやアバターは技術的にはアニメーションにカテゴライズしても良いのではないか?なんてことを言う人もいます。でもだからこそ、いま私たちはアニメとは何か?アニメーションとは何かと言う技術論以外の哲学をしっかり持つ必要があるのではないかと思います。言い換えると、なぜ、わざわざ私たちはアニメーションという技法や表現を使って作品を作ろうと思ったのか?そこには必ず理由と哲学があるのだと思う、そう信じています。」


「皆さんはどうでしょうか?日本のアーチスト、産業界でも、もちろん議論はされていることと思いますが、もっと国を超えて、アニメ、アニメーションというマーケットを超えて、議論されるべきことであると、僕は今、非常に感じています」

■質疑応答

質疑応答で学生たちから質問があがります。3人からの質問を約30分にわたり、じっくりと回答してくださいました!

–クリエーターとは何か?どのような人たちなのか?を教えてください。

「アメリカではクリエーターではなく一般的に”Artist”と呼んでいますね。”Artist”は芸術家とも訳せますが、単なる技術屋さんとは違うということだと思います」

「逆に日本においては、技術というものが最も重んじられているように感じます。それは間違いではありませんが、ただ技術だけを重んじすぎると、大抵の技術というものは、人間の力を超えて、大抵のものがテクノロジーによって置き換わっていく、そういうこと常に起きてきました。だからこそ、技術を支える歴史や文脈であったり、その技術を活かして、その時代にその人が、その人のパーソナルと哲学を持って、新しいチャレンジをすることが、作品を生み出したりすると思うんです。そういう人がアーチストなのかもしれま
せん」

–アクション作画監督を志望しています。プロデューサーとして一つひとつの物語を構成するうえで、人の心を見て動かすということは、齋藤さんにとってどのようなことでしょうか?

「僕はプロデューサーですが、作り手の気持ちを代弁すると、自分の半径3mの範囲内で起こっていることというのは、世界中の誰の中でもが起こっているのだと信じています」

「そこで自分自身が感じている喜びや驚き、奇跡などをテーマやモチーフに、アクションへと、物語へと昇華できると、世界中の人々に共感してもらえる、あなただけの作品が出来るのではないかと思います」


–今は他の国でも日本のアニメがインスパイアされた作品が出ています。今後日本のアニメ文化は揺らぐことはあるのでしょうか?

「みなさんは日本以外の作品をどれくらい観ているのでしょうか?」
「例えば、『スパイダーバース』は明らかにアニメの影響を大きく受けています
よ」

「今後のアニメの未来を考えるとき、日本のみにとらわれる事なく、互いの影響下と刺激のやり取りがあってこそ、アップデート、一層の発展があるのではないかと思います」と齋藤さんは語ります。

■結びとして

齋藤優一郎プロデューサーは今回、バンタン生に対してさまざまな例を挙げてお話しされていましたが、その中で強調していたことがあります。

「『アニメ』『アニメーション』が何かについては、個々に多様な考え方がある」

「『アニメとは何か』『アニメーションとは何か』という自身の哲学を持つことが大切であり、その考えをもとに多くの人と議論を交わしてほしい。」

普段なんとなく見ているアニメや、これからの自分たちが飛び込むアニメ業界について改めて考えるきっかけをいただけた非常に有意義な講義となりました。

齋藤さん、貴重なお話をありがとうございました!

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